第72話 安息日に、もし君が絶望したなら (テーマ『休日』)

6/8
前へ
/75ページ
次へ
 納屋にデボラを匿い二週間が過ぎた。戦争の終わる日を、レオは教会で神に祈るばかりだ。  しかし、村の噂にそのわずかな希望も消え去った。  ユダヤ人狩りが始まるらしい、ついにこの村も安全ではなくなったのだ。 「ここを出るんだ。逃げよう」  早朝のまだ薄暗い中、手を繋ぎ、人のいない野の道を駆ける。見つかれば二人とも収容所行きだろう。しかしレオは危険を冒して、デボラを逃す計画を立てたのだ。  頼りない少女の足元を、少年が導くように力強く進む。  短い呼吸の音は、やがて強い信頼に変わる。  少しも命を惜しまぬレオの献身は、信仰そのものだった。  自分を愛するように隣人を愛する。それはデボラを救った父の愛情と似て、尊い行いだった。  レオの心が見えたとしたらきっと美しい形をしているのだ、デボラは密かに思った。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加