第72話 安息日に、もし君が絶望したなら (テーマ『休日』)

7/8
前へ
/75ページ
次へ
 やがて見えた丘の上の教会前には牧師がいて、荷馬車が停まっている。 「安全な場所を用意した」、全てを知り逃亡の手配をしたレオの父が、彼女をジャガイモの荷の中に隠すと、レオは囁いた。 「妹の形見だ、平和になって君が元通りの髪の色になったら……きっと似合う」  別れの言葉の代わりに、美しい造花の花冠がレオからデボラに手渡される。堪えた涙を隠すように二人が顔を背けるのは、心通い合わせたがゆえの矜持だった。  農夫が鞭打つと、荷馬車が二度とは戻れぬ道を遠ざかっていく……。  デボラ。  いつか安息日を穏やかに迎える日、君は家族の誰も居ない孤独に絶望するかもしれない。  その時は想像してほしい。  ……君の隣にいて、悲しみを分かち合う僕の姿を。    <了>
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加