第73話 夏色アンセム (テーマ『音楽』)

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『事務の立花さんだ』 『存在感ないし、ちょっと気持ち悪いよね……』  不意に届いた『心の声』に栞は腹が立ったが、結局胸の奥底にしまい込む。こんな気持ちでも、クシャクシャに丸めてポイ捨てしたら、世の中に嫌なことが溢れてしまう気がして。  夏が近づき暑苦しいスーツを着た栞は、会社帰りの雑踏をすり抜けるように家路につく。  不協和音にサンドイッチされた人々の思念が一斉に、栞の心に繋がるようになったのはいつからだったか。 『今日も駄目だった……』 『飯食いてぇ』 『眠い……!』 『来週のテストが心配だわ』 『特売の卵、買い忘れた!』  ……栞は不快な声と音の氾濫を止める手立てもなく、意識をそらして足早に歩く。
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