2人が本棚に入れています
本棚に追加
『事務の立花さんだ』
『存在感ないし、ちょっと気持ち悪いよね……』
不意に届いた『心の声』に栞は腹が立ったが、結局胸の奥底にしまい込む。こんな気持ちでも、クシャクシャに丸めてポイ捨てしたら、世の中に嫌なことが溢れてしまう気がして。
夏が近づき暑苦しいスーツを着た栞は、会社帰りの雑踏をすり抜けるように家路につく。
不協和音にサンドイッチされた人々の思念が一斉に、栞の心に繋がるようになったのはいつからだったか。
『今日も駄目だった……』
『飯食いてぇ』
『眠い……!』
『来週のテストが心配だわ』
『特売の卵、買い忘れた!』
……栞は不快な声と音の氾濫を止める手立てもなく、意識をそらして足早に歩く。
最初のコメントを投稿しよう!