第73話 夏色アンセム (テーマ『音楽』)

3/7
前へ
/75ページ
次へ
 立花栞、23歳、独身。  テレパシーというべきか、彼女の耳には他人の思ったことが『声』や『音』として届く。一方的に、包み隠さず。  歩行者信号が青に変わると同時にメロディーが鳴り、人波から遅れた栞は我に返る。  彼女は海の見えるこのちっぽけな街に生まれ育った。中学の頃いじめに遭い……こうなったのは、その頃からだったようにも思う。 街を出ようにも、病弱な母を置いてはいけず、ましてやこんな非現実的な悩みを打ち明けられるはずもない。  狭い檻に閉じ込められストレスで我を失う動物のように、先の見えない不安で、栞はちょっと泣きそうになった。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加