第73話 夏色アンセム (テーマ『音楽』)

4/7
前へ
/75ページ
次へ
 そんなある日の帰り道だ、駅前の歩道橋の上から不思議な音が舞い降りたのは。  ザザー、ザザザァー。  最初は雑音かと思ったが、それは波打ち際の砂を洗う音だと栞は感じた。  リーン、リーンと澄んだガラスの音。これは風鈴だ。  あと、パタパタという音は、多分……団扇を仰ぐ音。  それからたくさんの子供がはしゃぐ声。放課後のチャイム。かき氷を削る音に、カエルの鳴き声。他には耳慣れない、トゥクトゥク、テンテンというリズム。でも心の安らぐ思念がないまぜになって漏れ聞こえた。  ……この人は、今、何を考えているのだろう?  栞はふと気になった。  歩道橋に上がると、一人の青年がアコースティックギターを抱え、雲一つない空を見上げていた。栞より年下に見える。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加