2人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女の姿を認めると、青年はまばゆい笑顔で白い歯を見せた。
「そこのお姉さんちょっと聞いていかない?」
マコトと名乗る青年は、栞の答えも聞かぬうちに、早速ギターを弾き始めた。音色と重なるように、夏の日差しのような透き通った声が放たれる。
最初は、元気なアップテンポが印象的なラブソング。次はゆったりしたバラード。揺るがぬ自信と、心に響く情熱があった。誰もが通り過ぎる中、私をいつもざわつかせる他人の声や音が急速に遠ざかってゆく。
「あ……」、音楽に集中している彼の心が、直接伝わって来て、私はマコトをまじまじと見た。
その声に追いすがるように、さらに何重にも彼の『心の声』が響く。きっと人一倍練習してきたのだ。歌う事が好きだという気持ちが全身でこだましている。
……歌い終わると、マコトは何にも気づかぬように、まだあどけなさが残る表情で「元気出た?」と栞に尋ねた。
最初のコメントを投稿しよう!