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「この書店はなっとらん!」
小さな『増山書店』の店内に怒鳴り声が響き、レジを担当するアルバイト店員の僕の前にいた客が、びくりと身を震わせた。
ああ……見るからにガラの悪い男性客が、先程から店長に食って掛かっているのだ。
自分が購入した落丁本の苦情を述べるのはいいとして、やれ清掃が行き届いていないだの、声が聞き取りづらいだの、段々本筋に関係ない話で店長を責める。
気さくで優しい店長は「アラフォーでこれ以上白髪を増やしたくないなぁ」とこの前ボヤいていたけれど、大学生助っ人の僕、高井戸良太だって書店の一員だ。劣勢の店長を援護する正義感は持ち合わせている。接客を済ませると僕は意気込んで加勢しようとしたが、店長は手でそれを制した。
男性はますます吠え、店長は頭を下げるばかり。見守る僕は、次第に気分がもやっとしてきた。落丁にしろ店長が悪い訳でない。こんな理不尽な客に、何故平身低頭なのかさっぱり分からない。
……結局後日新しい本と交換することで折り合ったけれど、さすがの店長も疲れた様子を見せていた。営業後のスタッフルームで僕はおずおずと不満を口にした。
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