第74話 海と真珠の街にて (テーマ『海』)

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 初江は、掌の上の小箱を開ける。  この日のために生まれた、淡く輝く大粒の真珠。  エンゲージリングを、木戸は彼女の左手の薬指にはめた。 「結婚しよう」、木戸の言葉に、はにかみながら初江は「はい」と頷く。二人には遠い昔からのさだめのように思われた。 「私たちはいつまでも変わらないわ。この真珠は待つ男と海の女の、約束の証だから」  木戸の胸に初江が左手を当てると、真珠が太陽に染まる。  確かな鼓動が指先に触れた。  無垢な真珠を抱いた母なる海に、誓いを立て抱き合う二人の姿は、やがて夕闇に溶け込んでいった。
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