第75話 琥珀色のメモリー~続・とある猫のお話~ (テーマ『猫』)

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 予兆は、些細な出来事でした。  君は、いつも自分で出入りしていた引き戸を、開けることが出来なくなってしまいました。  力自慢だったのに、鳴き声一つ上げず寂しそうに引き返したあの時、君はすでに気付いていたのですね。  自分の身体が不治の病に蝕まれていたことを。  しばらくして連れて行かれた動物病院で、君はその宣告を受けました。  診断の結果は「猫エイズ」。  もう、何の治療もできません、お医者様は仰いました。  まだまだ若い君の命が、さらさらと砂のようにこぼれ落ちながら、残り時間が見え始めているとは、とても信じられませんでした。  人間の目に見える症状はありませんでしたし、「ちょっと疲れただけだよ」と言いたげな君の顔に、病気なんて嘘なんだよと私は心の中で念じました。
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