2人が本棚に入れています
本棚に追加
予兆は、些細な出来事でした。
君は、いつも自分で出入りしていた引き戸を、開けることが出来なくなってしまいました。
力自慢だったのに、鳴き声一つ上げず寂しそうに引き返したあの時、君はすでに気付いていたのですね。
自分の身体が不治の病に蝕まれていたことを。
しばらくして連れて行かれた動物病院で、君はその宣告を受けました。
診断の結果は「猫エイズ」。
もう、何の治療もできません、お医者様は仰いました。
まだまだ若い君の命が、さらさらと砂のようにこぼれ落ちながら、残り時間が見え始めているとは、とても信じられませんでした。
人間の目に見える症状はありませんでしたし、「ちょっと疲れただけだよ」と言いたげな君の顔に、病気なんて嘘なんだよと私は心の中で念じました。
最初のコメントを投稿しよう!