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不意に光が床に移動したのは、男が天井の金具に懐中電灯を吊るしたからだ。
同時に長身が影となって、船倉の壁に禍々しく浮かび上がる。
無言で身を寄せ合う親子を、美味しい血を見付けた吸血鬼のような至福の笑みで見下ろして、兵士はざらついた笑い声をあげた。
「覚悟の上だろ? これは帝国に対しての重大な犯罪行為だよ。一家全員、死刑は免れないなァ」
耳に障る嫌な声に、力が込められる。
「死ねよッ!」
瞬間、息子を抱く父の身体が硬直した。
夫の背に柄まで深く突き立ったナイフを見て、母が押し殺した悲鳴をあげる。
その声を、まるで極上の音楽を楽しむかのように双眸を閉じて聞く殺人者の姿。
細い懐中電灯の光の中にはっきりと浮かび上がった喜悦の表情。
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