暗闇に潜む者

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「もうじき夜が訪れましょう。薄暗い森の道に、聖職者が人を放り出す訳にもいきますまい。屋根裏でよければ好きにお使いなさい。…今夜は身体をゆっくり休めると良いでしょう」 クレマンの言葉に、リュカは涙を零して何度も何度も頭を下げた。 ◇◇◇ あれから数日経過したが、今も男は屋根裏で寝泊りしている。 リュカが屋根裏に住み着いて以降、教会では不可思議な事が起こるようになった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ “今思えば、それは予兆であり私への必死の訴えだったのでしょう。もっと早く気付いてあげる事が出来ていたなら、あるいは違う結末もあったのかもしれません” クレマン神父は長く口を閉ざしていたリュカについての話を、晩年病床の中でそう語ったという。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 最初の朝。 クレマンは朝日と共に目を覚ますと、ふと自室の天井を見上げた。昨日教会へ飛び込んで来た若い男…リュカの謂れのない汚名を受けている、と訴えた瞳に嘘はないと感じたからこそ匿う事にしたが、どうにもあの時の目つきの鋭さが気に掛かった。 気が立っていたから出てしまった殺気だろうと思い込む事にはしたが、どうしても心に不快な棘を残した気分であった。 “いや、信じよう。彼は嘘をついていない” クレマンは気を取りなして着替えると、日課である教会傍にある花壇の手入れへと向かった。季節折々の花や、ハーブ等を育てているその一角に向かう途中、不意にクレマンは鼻に付く嫌な臭いを感じ眉を寄せた。 血と、動物臭さが混じっている。 一体何の臭いだと周囲を見渡すと、すぐにそれが目に入った。 ー 花壇の花を綺麗に避け、まるで土の肥料にでもするように ー ー 小さな小鳥からカラスまで含めた、十数羽余りの鳥達が死んでいた - それは奇怪な光景であった。 鳥達には全て共通している点があった。 喉元を噛み殺されたような傷があるにも関わらず… 決して“喰った”訳ではなかった点である。 野生の獣が鳥を襲う事は珍しくないが、喰う為以外…まるで殺す事を目的としたこのような死骸の数々を目にした事は、長く森の傍で暮らしているクレマンにも初めて見るものであった。薄ら寒さすら感じていると、背後から「うわぁぁぁ…!」と叫ぶ声が聞こえる。 慌てて振り返ったクレマンが見たのは、頭を掻き毟りながらパニックを起こしているリュカの姿であった。 「リュカ、一体どうしたのです?!」 髪を引き抜きそうな勢いのリュカの両手を押さえ、落ち着かせようとするクレマンに…リュカは泣きながら半笑い気味に呟いた。 「また、きっとあいつ…あいつが、来たんだ。アイツは暗闇から来るんです、神父様…」 そう訴えたリュカの目は、どこか焦点が合っていない様子であった。
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