夕暮れハードル

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2018年8/15(月曜日) 「これが残っていた記録です」 渡されたのは彼の書いていた日記帳。 それを読んでバッグへとしまう。ここに居るんだ。それでいい。 頭を下げて部屋を出る。 扉を閉めると夕日の眩しさからか院内が橙色に染まっていた。至るところから吹き出る涼しい風。青に滲んでいる橙。プールで泳いでいるような温かさと冷たさ。 今の私にはその両方が邪魔だった。 手続きを済ませてエスカレーターを下りる。中央出口からロータリーへ。 蝉の鳴声。 大降りの夕立。 日は傾いていた。 タクシーへと乗り込む。 一匹の蝉がフロントガラスへと止まる。ドライバーが手をかざすとすぐに飛び立った。まるで傾いた日すら越えるように高く。まるで夕立さえも避けるかのように素早く軽々と浮いた。 自宅の住所を伝えるとドライバーはハンドルを操作しようとする。 そこで私は婚約指輪の代わりに貰った腕時計を(ほど)く。これはもう要らない。ガラスの向こうには眩しいくらいの夕日。ざーざーと降る夕立。永遠に続くハードルはもうない。 「運転手さん。これ前に乗ってた人の忘れ物だと思うんですけど」 おしまい。 ©2021年 冬迷硝子。
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