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「ブチはさ、そんな切ない人のお友達だったの。その友達を私が奪ってしまったんだよ。それで田宮さんは行ってしまったんじゃないかって、すごく悪いことをしてしまったんだって、思ったから」
言いながら目頭が熱くなってきて、これはまずいなと思った。返事は少し遅れて返ってきた。
「そう……だよね。咲ちゃんの立場からしたら、そうだよね。うん。分かるよ」
言葉を確かめるようにして話した夫の声には、それまでとは違うしんみりとしたものが混じっていた。決して泣くわけではないけれど、泣くまいと堪える優しい震えを確かに感じた。受け入れられた、心が繋がったという手応えを感じた。嬉しかった。
「だからね、だから、ブチも田宮さんももういないけど、私はせめて田宮さんが大切にしてたブチ一頭分の命だけは、死ぬまでにきっと救わなきゃいけないと思った。それで、保護犬がいいと言ったの」
言い終えて私は深いため息をついた。伝えたいことを全て言い切れた安堵感に包まれていたのだ。
すると夫もフーッとため息をついた。といってもさっきのような不機嫌なものではなく、何かを決意したような、自分にいい聞かせているような、そんなため息だった。
「なら、迷うことないじゃない。確かにゆうのことがあるから今すぐは無理でも、情報収集しとくといいよ」
興味なかった俺だって、多少の知識は持ってるくらい保護犬なんてポピュラーなんだから。と付け加えて、夫は笑った。
全面的に受け入れてくれたのだ。夫はこういう人だ。理由さえ納得できれば、家族の願いは最大限考慮して、叶えてくれようとする。そういうところが好きなのだ。子供も私も、そういうパパが大好きなのだ。
「そうだね、そうするよ。ありがとう」
私も笑った。
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