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足が止まった。あんなに軽かった足が。
そこは確かに記憶通りの場所だった。でも、誰の声もしなかった。
時間を重ねた建物。カーテンや雨戸が閉まりきった窓。車が一台も入っていない車庫たち。門の柵は鍵がかかっているのかがたがた揺れるだけ。
最後に見たその場所はもっと明るかった。日が当たってあたたかかった。たくさんの声や、音が聞こえていた。
喋り声、笑い声、子どもや妹弟を叱る声、泣きわめく子どもの声。でも、やっぱり多かったのは笑い声。楽しそうに生活する、家族の声。
私の年下の友人たちを含めた住人たちの声が聞こえていた。
聞こえていた、はずだった。
だから、時間が経ってもその場所は変わらない。そう思っていた。
こんな風に変わってしまうなんて、思わなかった。思いたくなかった。
彼らの未来は光輝いて、希望に満ちていたはずだった。それなのに、なんでこんな風になってしまったんだろう。
外側だけはあの日のままで、中身だけが空っぽにされて置いていかれた家たち。
その場所は私の知らないうちに冷めきってしまった。
私は、気がついたらあの子の家の前に立っていた。何度もチャイムを鳴らしに玄関へ立ったあの家。
他の家と同じように閉じられ、物音すらしないあの家。とても、冷えていた。
だけど、なんでだろう。
その家だけ、なにかの気配がした。
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