嘘つきは泥棒のはじまり

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 私は『うそつき』を手に取った後、スーパーでいつものように用事を済ませて外に出た。今日はなんだか、この『うそつき』のお陰でいつもの倍くらい得した気分だ。  買い物袋に入った『うそつき』を取り出し、ケースの中のものを覗き込む。丁度小腹が空いたところだし、さっそくこの気になるものを食べてみようか。  私はケースをパカっと開き、この黒い謎の菓子を指で摘んだ。外側の生地は思ったよりもモチモチとしているようで、私の食欲をさらに刺激してくる。  ――さて。さっそく、口に入れてみようか。  ゴクリとツバを飲んだ後、私は一口で『うそつき』を食べた。思ったよりも大きくて口の中がいっぱいになったけれど、キャッチフレーズにあったように中々癖になる食感で美味い。一度食べたら病み付きになるような甘さが、「また食べたい」という欲を掻き立てる。  スーパーから歩いて100mほど離れた歩道で『うそつき』を味わっていた私の肩に、束の間の幸福感を崩すかのような衝撃が走った。突然、眉間に皺を寄せて恐ろしい表情をした見知らぬ男性に肩を二度叩かれたのだ。  黒いスーツを着た白髪混じりの男性は、少し間を置いた後にゆっくりと口を開いた。  「お客さん、買い物袋に入ってるもの……全部レジ通してないでしょ?」  モグモグと口を動かしたまま男性の言葉を聞いていた私は、未だ残っている粘りっこい『うそつき』をゴクリと全て飲み干した後にこう呟いた。 「いいえ、全てレジを通しましたよ」
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