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『私の血を飲んで。』
夏に見合わない異空間に、上擦った声がキンと響いた。
それが何を意味しているかはもちろん分かっていた。
吸血鬼に血を吸われた人間は、人としての命を終え、吸血鬼となってしまう。
もし僕以外の吸血鬼と出会っても、血だけは捧げちゃいけないよ、とジルに口酸っぱく言われていたから。
「いや…僕は生き物の命は摂らないって言ったでしょう?」
『そんなこと言ってる場合?今にも死にそうじゃない!』
『ジルと一緒なら私吸血鬼になるのなんて平気。人間としての生活に何も思い残すことはないよ。』
ここまで言っても渋るジル。
優しさが彼を殺すくらいなら、私は鬼にでも吸血鬼でも何にでもなってやる。
『言ったよね、死ぬくらいなら僕がほしいって。わたし、この時のために生きてたんだね。』
『ジルだいすき。』
ジルは酷く傷ついた顔をした。
黒一色の恐ろしい瞳から、落ちる透明の水滴はまるで人間のものだった。
そして、決心したように唇を結んで、首を持ち上げ上体を起こした。
だから私も、自分から身を乗り出して、彼に近付く。
大きく開かれた口が私の肌に触れたのを感じ、少しだけ怖かったが、歩道橋らから身体を落とそうとしたときのことを思えば大したことはない。
この先何が待ち受けているのか分からないが、ジルと一緒なら大丈夫。
『…!?』
首元から全身に走る得体も知れぬ強烈な痛みに襲われた私は、こうして人間としての生活を終えた。
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