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人は、未知のものと遭遇したとき呼吸までもを止めてしまうらしい。
自分が息を忘れるほどに、その瞳は恐ろしく、そして魅惑的だった。
自分が死にたかったことを忘れてしまうくらいに、だ。
「あれ!?まだ信じてない?ん〜…。」
「コレは?こないだ日光で火傷したんだよね。いつの時代も、日光はだめっぽい。」
固まったままの私に見せるように、男は黒い袖をチラリと捲る。
赤黒く溶けたように爛れた皮膚の醜さに、思わず口元を手で覆った。
「あ〜グロだめだった?」
『…いや、すみません。』
私は、いま、自殺に失敗し、吸血鬼と話しているの、?
ドキドキと激しく心臓が動くのは、怖いからだろうか。
それとも、興奮しているのだろうか。
目の前にいるトンデモナイ未知の生物に。
「君に何があったのか知らないけれど、吸血鬼と友達ってのも悪くなくない?僕はジル。君は?」
ジルと名乗った男は、私の失態の理由を聞くことも責めることもなく、サングラスの奥から真っ直ぐに視線を送る。
『…ウミ。』
逃げ出すことも出来たのに素直に自分の名を答えてしまったのは、この先のこの男との関係を望んでしまったからかもしれない。
ゆらゆらと暑さが立ち込めるこの街で、ただこの男だけが涼しげだった。
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