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『ねえ、今日は何したの?』
「いやあ、何もしてないよ。さっき起きた。」
ジルはせがむ私に、自分の人生を話し聞かせてくれた。
薄暗い書斎で私たちは、手の届かないくらいの距離で向き合って座る。
怖いでしょ、というジルの不必要な優しさがくすぐったかった。
数年前、吸血鬼に襲われて自分も吸血鬼になってしまったこと。
人間のための食料だけでは満足できない身体になってしまったこと。
身体が引き裂かれるほどの強い吸血への欲求。
しかしこの人間ばかりの世界でコッソリと暮らすジルは、人を襲ったりはしないらしい。
私を助けるくらいだ。
食べられるなら、もうとっくに食べられている。
死体清掃の仕事に就き、死んだ人間や動物の血液をこっそり飲むことで生き延びていること。
吸血欲求の強さにより変わる瞳の色。
日光に触れると爛れる白い皮膚。
ジルは絵本を読み聞かせるように自身を語る。
人間から吸血鬼になっただなんて、どんな絶望だったろう。
しかしジルは、それを感じさせないくらい飄々としていた。
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