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『ジル!?』
いつものようにジルの寝床に訪れた夕方。
陽の差し込まない書斎に彼のシルエットが無かった。
驚いて部屋を見渡すと、机の足元に倒れ込むジルの姿が、目に飛び込んできた。
室内でも欠かすことの無かったサングラスが床に落ち、割れている。
『どうしたの?!』
駆け寄るとぜいぜいと苦しそうに呼吸するジルが、弱々しい力で自分の腕を持ち上げて、私の顔に触れた。
「ウミの匂いがする…。」
普通ならこういう場合、119番通報するのが正解だろう。
しかし彼は吸血鬼。
私は頬を掠めるジルの手のひらを、震えながら掴むことしか出来なかった。
「死体を漁っているのを見られて…クビになってたんだ、僕。恥ずかしくて言えなかったけど。」
はは、と自傷気味に笑う彼が言ったことが、何を意味しているのかはすぐに分かった。
___血液を摂取、していないんだ。
『ねえ、どうしたらいいの?!』
私はずっとジルのことを見てきたのに、近くにいたのに、こんな日が訪れるなんて考えることもせず、衰弱した彼の前ではただ無力だった。
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