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私は熱くなる顔を叩き、決心してシーツを自分の身体にぐるぐると巻き付けると、ベッドを這いだす。
もう恥ずかしくて、羽柴先輩と顔なんて合わせられない。
―――逃げよう。
とにかく先輩の家のカードキーを素早く置いて、着替えて、ここから出て、
それからゆっくり考えたいのだ。自分の今後について……。
私はそう思うと歩き出した。まっすぐ歩けない自分の身体にいちいち恥ずかしくなる。
自分のカバンを探し、見つけるとカバンの中からカードキーを取り出した。よし、あとは、これを置いて、着替えて、帰るだけだ。
そっとリビングの端にあるチェストの上に置こうとしたとき、
「みゆ、何してるの?」
と声が聞こえて、びくりと体を震わして見上げると、隣に羽柴先輩立っていた。
ズモモモ、という効果音が聞こえそうなほど、紫色のオーラを放って。
(なんだか怒っていらっしゃる……? 何で⁉)
「え、えぇ……っと、先輩?」
「まさか俺に気づかれないようにカードキー置いて帰ろうとか、考えてないよね?」
「いや、まさか」
そう言ったけど、声が裏返った。
それに先輩の眉が不機嫌そうに動く。
「ふうん」
もう何もかもがいたたまれないので、助けてください。と言いそうになる。そのとき、ひょいとそのまま抱き上げられ、ベッドに強制送還された。泣きそうになって羽柴先輩を見上げると、先輩は困ったように息を吐いて、
「まだきちんと歩けない癖に。あとで家まで送るからちゃんとここにいて」
と言う。目の前に裸の先輩の身体があって、またそれも恥ずかしさを増長させるので、私は目をそらす。明るいから余計に目に毒だ。
「でも、もう外は明るいし」
「うん? 朝だから明るいの当然だよね?」
「着替えるから。着替えるまでこっち見ないでください」
「もう見たよ、全部」
「っ! それでも見ないで!」
私が言うと、羽柴先輩は、まったくもう、と私の頭を軽く叩いた。
うぇええええん! もう見ないで、昨日の夜の出来事もオールデリートして!
恥ずかしすぎて、ほんといたたまれない。いますぐ逃げたい。そんな衝動が頭をめぐる。
なのに羽柴先輩は絶対に逃さないと言うように私を抱きしめると、
「できるだけセーブしたつもりだったけど、ごめんね」
と耳元でささやいた。
だめだ、ここにいたら、色々と爆発する。
心臓とか、脳とか、顔とか、そういう何かしらが木っ端みじんになりそうだ。
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