9章:彼の事情

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9章:彼の事情

 深夜に目が覚めて、目の前を見たら裸の先輩の胸板があって卒倒しそうになったので、静かにグルリと反対方向を向いた。 「みゆ? 起きたの?」 「こ、こっち見ないで」 「それは聞けないな」  先輩が後ろからクスクス笑って、髪に、背中に、軽いキスを落とす。くすぐったくて身をよじると、意地悪するみたいに余計にそうされた。 「お願いだから、やめてください」 「じゃ、こっち向いて」 「やだ」 「いつになったら二人の時くらい素直になってくれるんだろうね」  私は十分素直だ。  だって今回、私は自分から先輩に抱き着いた気がする。そのあとも何度も、だ。これ以上どうすればいいのだろうか。聞きたいけど、聞いたらあまりいい結果にならない気もして、私は口を噤んだ。
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