9章:彼の事情

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「でも先輩だけ名字が……違うんですね?」 「俺は離婚した後、そのまま母親の旧姓に戻ったから羽柴なの。一樹は離婚後も父の家系が引き取った。長男だしね」  それがいつのことなのかわからないけど、私が知っている先輩はすでに羽柴だった。 「全然……知りませんでした」 「高校の時は羽柴だったもんね」 先輩は少し表情を陰らすと、「母が亡くなって鳳家に出入りすることも増えたんだけど……。俺はね、父とはあまり仲良くはないんだ」 と言う。  今は自分の母とは違う女性と結婚している父との関係と言うのも難しいんだろうな……。先輩は誰とでもうまく関係を築けると思っていたから意外ではあった。 「お兄さんとは……副社長とは、仲よさそうでしたよね?」 「うん、一樹のことは尊敬してる。底抜けにお人よしなとこも含めて」 「副社長って、お人よしなんですか」 私は思わず笑う。 「一樹って、昔から動物に好かれるんだよ。何度も、猫とか犬とか、勝手に一樹についてきてたことあったんだよね。今でも時々あるよ」  それを想像するとまた笑った。先輩はそんな私の髪を何度も撫でる。
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