9章:彼の事情

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 その先輩の決意している顔を見て、私は、先輩がまた遠い世界の人のように思えてしまったのだ。高校の時も先輩は十分に遠い存在だった。今もそういう面はある。  でも、こうやって先輩が自分に近づいてきてくれて、身体を重ねて……。  私も少しずつだが、先輩をただの男の人として接することもできるようになってきていた。でも……。  大きなグループ会社の会長の孫で、今の会社の社長の息子。  もし他のだれかの話なら『すごいなぁ』と素直に思ったのかもしれない。でも先輩がそうだなんて……私には『悪い事実』の分類にしかならない。 「みゆ?」  先輩は不安そうな目をすると、私の頬を撫でる。 「あ、す、すみません。世界が違いすぎて。今頃驚きが来たというか……」 「ごめんね。これ聞いたらみゆは俺と付き合う事にしり込みするかなぁって思ったんだ」  先輩は、また、ごめん、とつぶやいた。  その様子に私は眉を寄せる。
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