9章:彼の事情

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「参考までに聞きたいんだけど、みゆの思う『結婚するまでの普通の年月』って、どれくらいかかるの」 「え……普通だと最低2年は付き合って、婚約して半年後くらいに入籍? 子どもはその2年後とか」 「申し訳ないけど、2年は待てない。子どもはもっと」  きっぱりと先輩は言う。 「えぇ……」  なんでよ。そう言おうとしたとき、先輩は私をまっすぐ見つめて、 「みゆが他のだれかのものになったら嫌だから。自分のものだって、証が欲しいんだ」 ときっぱりと言う。その言葉に心臓の音が速くなる。  私は泣きそうになりながら、 「そもそもこれまで誰とも付き合ってないですし。私、先輩と違ってモテないですよ! だから心配する必要なんてないし、急がなくても……!」  最後の言葉は先輩の唇にふさがれた。  長いキスのあと、名残惜しそうに先輩の唇が離れる。 「ちょ! な、なんですか……突然!」 「だから心配だなぁって思っただけ」  よくわからないけど、ケンカ売られてます?  私があぁん? というように先輩を睨むと、 「そういうとこだよ」 と先輩は苦笑して、私の頭をまるで子どもをあやすみたいに優しく撫でた。
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