12章:外堀の埋まる音がする

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 眞城さんとの出会いなど生活には多少の変化はあったけど、大きな変化の一つはやはり先輩がいないことだ。  先輩は電話をくれたが、夜遅かったりして行き違ってしまい、少しのメールのやりとりだけで、まったく先輩とは話しもできないまま日々が過ぎた。  そして木曜日の午後、ふと、宮坂さんが私の首の後ろを指さした。 「これ、羽柴先生でしょ。今、出張中じゃないの?」  そう言われて、ふと、日曜のことを思い出す。  そういえばたくさん自分のものだと言うシルシをつけられた。もう3日も経ってるし消えてると思って油断して、少し首の開いている服を着たのは失敗した。前はしっかりチェックしたのだが……。 「まさか、まだ残ってるなんて……」  私が首元を手で隠しながら悲壮な顔で言うと、宮坂さんは自分のスカーフを貸してくれた。やはり持つべきものは宮坂さんだ。 「羽柴先生って結構粘着質よねぇ。あっさりしてるように見えて」  そして宮坂さんは続ける。「新田先生も『あの人の愛って狂気だよね』って言ってたわよ」  何ですか、それ。  そんな怖いこと言わないでほしい。ただでさえも、羽柴先輩の愛は、重い気がしているのだ。
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