12章:外堀の埋まる音がする

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「でも、愛が重くて押しつぶされそうになってるのかと思ってたけど、なんだか違うようね?」 宮坂さんは言う。 「え?」 「羽柴先生がいないの、寂しそうだから」  正直、先輩の出張を最初聞いたときは嬉しかった。  嬉しかったけど、4日経った今、嬉しくはない。  なんだか先輩の顔が見れないと落ち着かない。先輩の熱を思い出して、それをどう発散していいのかもわからずに、一人悶々としている。変な夢もやたら見るし……。  やっぱり生霊だろうか。お祓いとか行った方がいいのだろうか……。 「彼氏の不在が寂しいなんて、もうすっかり普通のカップルねぇ」 「そうなんですかね……。やっぱりいないといないでちょっと寂しい……のかもしれません」  これは認めるしかないのだろう。完全に毒されている気がしないではないが……。  宮坂さんは意外そうに私の顔を見る。 「あれ、今日はやけに素直ね」 「……ちょっと前まではラッキーって思ってたんですけどね。これだけ会わないの初めてだし、やっぱり離れてると違和感あると言うか……」  もしかしたら、あの金曜から日曜のサバイバルな3日間のせいかもしれない。  先輩と一緒にいると離れたくなるのに、不思議と、先輩といるのが当たり前になってきていて、先輩がいないと自分の身体の一部がないみたいに感じる。  身体が、記憶が、全部先輩を覚えてる。  ほんと、こんなこと今までなかった。自分で自分が怖い。
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