12章:外堀の埋まる音がする

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「じゃ、結婚する覚悟はできたの?」  そう宮坂さんは聞いてきた。 「結婚は……まだ早すぎると思うし。やっぱり恐れ多いって言うか。家系がちがいすぎるって言うか」  私は続ける。「だって先輩は昔から『特別』だし」 「まぁ、ハイスペックなのは確かだけど。でも同じでしょ? それにあっちが、いいって言ってんだからいいじゃない」 「とはいってもそんなすぐに結婚しようとは決断できないですよ」  私が言うと、宮坂さんは呆れたようにため息をついた。 「それ、ほんと贅沢な悩みよ。うじうじしている間に、春野に取られても知らないから」 「それは……」  それはいやだ。それだけはわかる。  私の今の正直な気持ちは、やっぱりただそばにいたいだけだ。  そうするのに、結婚とかそういう形は本当に必要なのだろうか。
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