12章:外堀の埋まる音がする

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「さ、最上階?」 「社長がお呼びです」 「しゃっ⁉」  え、なに。怖い!  突然社長に呼ばれるとかある⁉ 何かヘマした……⁉ ……とかではなくて、間違いなく、先輩関連の話のような気がした。社長は先輩の父親だから。  きっとそうだ。やけに大きな緊張感が全身に走る。 「申し遅れましたが、私は社長の第三秘書をしております」 「……秘書だったんですか」 「以前から一樹さんと健人さんのお世話も」 「そうだったんですね……」  そんな世間話してもまったく緊張は解けない。  エレベータがどんどん上に上がっていく中、私は泣きそうな顔でそこにいた。 「社長は怖い人ではないので、大丈夫ですよ」  振り返って私の顔を見た眞城さんが、優しげな声で言う。  と言われても、平社員の平平凡凡な人間が社長に会うというだけで、随分、大それたことだ。しかも付き合っている男性の父。  あ、今、私、服装大丈夫だろうか。  こんなことなら(私が持っている中で)一番高いスーツ着てくるんだった……。
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