12章:外堀の埋まる音がする

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 降り立ったフロアは、私だけなら絶対こないフロアだ。 役員フロアはカーペットまで他のフロアと違う、ということをその日初めて知った。  役員フロアは手前から、秘書室、副社長室、役員室、社長室が並んでいた。秘書室以外すべて重厚なドアがつけられている。  眞城さんが長い廊下を歩いていき、私はそれに続く。そして眞城さんは、社長室のドアをノックした。  どうぞ、と中から先輩の声と少し似ている低い声が聞こえ、私はその瞬間、背筋がピンと伸び、心臓の音が速くなった。たぶん私がもう少しビビりなら漏らしていただろう。寸でのところで抑えている自分をほめてやりたい。
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