12章:外堀の埋まる音がする

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 しかし、こちらの緊張とは裏腹に、出迎えてくれたのは、先輩に目元がよく似ている60代前半くらいの男性だった。  似てる……。どうやら、先輩は父親に似たようだ。それを見て、少しほっとしている自分がいた。  社長は立ち上がると、 「すみません、直接こちらからうかがうべきところを」 と頭を下げ、「私は、健人の父の鳳信人です」と手を差し出した。  私が、 「総務部、柊みゆと申します」 とその手を握ると、社長は微笑む。 「健人とは高校時代からのお知り合いだそうですね?」 「……あ、はい」  おかけください、と応接椅子に座らされた。座ってみると、社長室の椅子はふかふかすぎて落ち着かなかった。しかも目の前には先輩の父で、社長。 ―――一体、何だこの状況は……。
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