12章:外堀の埋まる音がする

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「いや、賛成です。できればいますぐにでも結婚してほしいくらいに」 「賛成⁉」  驚きすぎて立ち上がりそうになる。立ち上がれなかったのは椅子がふかふか過ぎたのもあった。 (っていうか、なんで? どうして賛成⁉)  結婚するとまだ決まってなくても、付き合ってることすら絶対反対されるものと思ってた。  なのに社長はきょとんとした様子で、 「何故そんなに驚かれるんですか」 と言う。 「いや、あの……私と健人さんとでは釣り合わないと思っていましたから」  私は言葉を選んで言う。それは誰が見ても明らかだ。うちのボロ屋を見れば、もっとその気持ちが濃くなるだろう。  それを聞いて社長は少し考えると、 「それは家柄とか……そのような面で、と言う事でしょうか」 「そうです」 「確かに、一樹は真中グループのご令嬢との縁談が進んでいますが」 「……そうなんですね」  副社長は政略結婚を控えているらしい。  私は思わず納得してしまった。真中グループも大きな食品系のグループ企業だ。それは、お互いの会社にメリットの大きな結婚だろう。 「そして、健人も、本来であれば、そのような家柄の方と結婚してほしかった」 社長は言う。  そうですよね、と言おうとして、社長の言葉が、過去形であることに気づいた。
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