12章:外堀の埋まる音がする

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 そして廊下にでて、やっと大きな息を吐く。  あの社長、怖い。さすが社長だ。圧がスゴイ。眼圧もすごい。  あの人が押しまくってきたら、もう逃げられない気がした。  とにかく今は、逃げるが勝ちだと直感が働いたのだ。  私、そもそも身分差や家柄の差で、先輩との結婚を躊躇していたのだろうか。 それが解消されたら、結婚するってこと? それなら、なんで今、まだ躊躇してるんだろう?  考えてみて、少しわかった気がした。  やっぱり私は自分の思うペースでゆっくり先輩と進みたいと思ってる。それは普通のカップルのように、ごく普通のペースで……。その結果、いつか結婚する選択肢も出てくるのかもしれない。  なのに、社長と話している間、私にはずっと聞こえていたのだ。 ―――外堀を急ピッチで埋めていくような大工事の音が……。
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