13章:不安と喧嘩と仲直り

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 土曜の夜、店に着くと、店の評判は聞いていたが、非常に優美な佇まいの料亭で腰が引けた。こんなとこ初めてだ。  ここ、一人いくらくらいするのかな……と思って首をふる。  考えるのやめやめ。これ全部食べてもいいくらい、私、最近先輩のせいで大変なんだから! 副社長じゃなくて先輩に奢らせよう。そう、決意して、私は店に足を踏み入れた。  案内された部屋に行くと、副社長が先に来ていた。先輩はまだのようだ。  副社長は私を見るなり、 「昨日は、ほんとうにごめんね」 とまた頭を下げる。  私は、いえ、と言いながら、つい目線をそらしていた。どうしていいのかわからない。  でも、副社長のことは、ひどいとか、嫌いとか、そう言う風にはまったく思えなかった。  少し二人で雑談していたら、足音が聞こえた。足音だけで先輩だと思ったら、本当に先輩がやってきた。  いつの間に、足音でまで判断できるようになってるんだろう。  そして、久しぶりに本物の先輩の顔を直接見ると、いろいろ思い悩んでいたことが一気に押し流された感覚があった。そして私はふいに泣きそうになって、唇を噛む。 (たった一週間じゃん。一週間会えなかっただけで、なんで泣きそうになってるんだか……。自分で自分が恥ずかしいわ……!)
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