13章:不安と喧嘩と仲直り

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 そんなことを思うと、突然、先輩に抱きしめられる。 「ひゃっ……‼」 (人前(しかもお兄さんの前)ですけどーーーー⁉)  驚いて手を突っぱねると、先輩はそのまま楽しそうに笑って、抱きしめる力を強くした。 先輩の低い笑い声が耳に届いて、恥ずかしいのに、やけに胸がぎゅっとなる。 (先輩のにおいだ……)  そう思ったのが通じているのか、 「みゆのにおい、安心する」 と先輩が耳元で笑った。  その事実がやけに恥ずかしくなって、 「も、もう離してください!」 と叫ぶ。 「ごめん、久しぶりだったから。つい」 先輩が言ってやっと手の力を緩めてくれた。謝る方向が違う、と思うけど本気で怒れない自分がいる。  私は先輩の腕の中から抜け出ると、先輩の方を見た。そのとき、先輩の息が乱れているのに気づいた。 「先輩、もしかして、走ってきたんですか?」 「うん、久しぶりに走った気がする。足、ナマってた」  そう言われてなぜか嬉しく思う。先輩、私に会いたいって思ってくれてたのだろうか。  その嬉しい気持ちを隠すように私は笑い、 「多分、今なら私が勝てますね」 「うーん、それは確かに」  先輩も笑って当たり前みたいに私の髪を撫でた。私は先輩のその笑顔を思わず見つめていた。これまでいろいろとあったせいか、先輩の顔を見て、なんだかすごくほっとしていたのだ。 (私、先輩のいない間、色々あったのは先輩のせいだって、先輩に対して怒っていたはずなんだけどな……)  顔を見てすぐにそれが流されるなんて、不思議だ。これも先輩が彼氏だからだろうか。  そんなことを思っていると、 「ほんと二人、仲いいよね」 と副社長がクスクスと笑う。 (忘れてた! 副社長がいた!)  恥ずかしさのあまり下を向いて手を横に振る。 「そんなことないです! お二人こそ仲いいじゃないですか!」 「まぁ、確かに」  副社長は簡単に認めた。それに先輩がちょっと困ったように笑って、一瞬で場が和んだような気がした。
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