13章:不安と喧嘩と仲直り

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 それは……と言葉に詰まって、それから何とか言葉を紡いだ。 「でも、未来が決められてるなんておかしいですよ。普通は結婚する前から子どもの話なんてしないし! 私、突然社長に呼び出されて、怖かった。しかも子どもの話までされて! こんなの普通じゃないでしょ!」  言い出したら止まらなかった。  先輩みたいに特別な人たちはみんなちゃんと決めてて、迷いがない。私はいつだって迷ってるし、戸惑ってる。  その差が、不安で、辛くて、怖くて……。  今までのそんな思いが飛び出すように、私の言葉は止まらなかった。    先輩の眉が不機嫌そうに寄る。そのしぐさに胸が不安でどきりと跳ねる。 「みゆは『普通』っていつも言うよね。俺はみゆと普通の夫婦になりたいんじゃないよ」  そんなの初めて言われて、私は驚く。そんなに普通って言ってた?  でも普通の何が悪いの。当たり前に特別な先輩にはわからない。 「私は、普通の夫婦になりたいんです。結婚してゆっくり子どものことも考えて、子どもがもしうまれて大きくなって独立したら、二人で縁側でお茶飲んで世間話して」  って今、私は何言ってるんだろう。もう混乱して訳が分からなくなっていた。  なのに先輩はいつものように、私の話を真剣に聞いてくれる。 「でも、それ本当に普通かな? 縁側でお茶飲みたいならいくらでもつきあうって」 「違います! そういうことじゃない!」 「なにが違うの。俺ってそんなに普通じゃない?」  先輩の声に、『先輩は普通じゃない』って言ってたみたいで、後悔の念が身体を駆け巡る。でも止まらなかった。
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