13章:不安と喧嘩と仲直り

17/17
前へ
/302ページ
次へ
 先輩はいつだって優しくて、時々意地悪だ。 (『普通』って言葉、逆手に取らないでよ!) 「うぅううううう!」 「こら、唇噛まない」 「だって」 「うん」  本当は謝るのは私の方なのに……。 「ごめんなさい、酷い事言った」 「……なにが?」 「普通じゃないって……先輩のこと」  ひどい言葉を言っても、先輩相手だからって甘えてたのかもしれない。  後悔する私に、先輩は笑った。 「まぁ、みゆへの愛情の重さは人一倍だし、ちょっとおかしいのは自覚してるよ」  そして続ける。 「でも、これが俺の『普通』なんだ」 「……」 「みゆのこと独占したい、みゆのこと全部愛したい、みゆとずっと一緒にいたい」  先輩はまっすぐ私を見て、目を細める。 「みゆはどう思ってる?」  私は意を決すると、先輩の目を見つめ返した。 「私も先輩といたい」 「うん」 「……それに、普通に仲直りのキスもしたい」  そう言うと、先輩は少し驚いた顔をした後、すごく嬉しそうに笑った。  そしてその日は、抱き合えない代わりに、何度も何度もキスを交わした夜になった。
/302ページ

最初のコメントを投稿しよう!

899人が本棚に入れています
本棚に追加