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子どもの足とはいえ、その子も速かったし、細い路地にも小さな体は入りやすかったので、細い路地を何本か通ると、男の姿はすっかり見えなくなっていた。男の方も、日中、子どもを追いかけまわすなんてできなかったのだろう。
俺は路地裏で止まって、男がいないことを確認してから息を吐いた。久しぶりに全力疾走して、自分の気分もいくらかましになっていることに気づいた。
「一緒にいたの、お父さん?」
「しらないひと」
女の子は、やっとのようにそれだけ言葉にしてくれた。
路地裏に小さなお店を見つけて、一緒に入る。そこの店番のおばあさんに事情を話して、警察に連絡を入れてもらった。
「もう大丈夫だから」
震える女の子の肩を撫でる。
駆けつけた刑事たちの中の一人が、女の子の名を呼んで抱きしめていた。俺はその刑事にその子を見かけた場所を伝えると、自分の母親の不安そうな顔を思い出し、その場を走り去った。
その日は結局、両親の離婚が決まり引っ越しの手続きなどバタバタとしていたのだけど、夜にニュースで見ると、あの日、あそこで見た男はつかまっていた。捕まえて連行する映像には、あの刑事が犯人の肩を掴んで映っていた。
ちなみに、女の子を誘拐したその男は、誘拐だけでなく、殺人を含む多くの罪を犯していたらしい。もしあのままあの子が連れ去られていたら……。
俺はあの時、あの子が無事でよかった、と心から思っていた。
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