16章:俺と彼女と彼女の父親(side羽柴)

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 そして、再会の日まで、俺は必死だった。  弁護士としての成功はもちろん、その後、どうやってみゆと会うのがいいのか、ずっと模索していた。  幸い自分の実家は飲料メーカーだった。みゆも小さな飲料メーカーに就職した。  正直、これは奇跡に近いと思った。  そして実をいうと、俺はある日、みゆの勤める飲料メーカーの経営が傾きかけていると聞いた。このままいけば、吸収先も見つからずそのまま全員が路頭に迷うかもしれないと。  そうなればみゆはきっと傷つく。  だから、俺はそこに秘密裏に一人の開発員を派遣した。そこで商品を生み出してもらうためだ。  実際に開発した乳酸菌飲料が当たり、みゆの会社はぎりぎり赤字から脱却。  さらに、そのノウハウを持っていれば、ホウオウに吸収できると踏んだのだ。  事情は話さなかったが、父親も兄も賛成した。ホウオウは乳酸菌飲料の分野をこれから拡大していこうとしていたから。みゆのいた会社の社員も、希望すればすべての人間を雇うつもりだった。  ただ、みゆはどうするのか、それが気がかりではあったのだけど……。  たぶん彼女のことだから、多数の意見に流されてくれるだろうと考えていたし、実際にそうなった。    そして、みゆは何も知らずに、継続雇用のための面接に来た。  あの日のことは何度も思い出してる。  みゆの顔を久しぶりに見て、声を聞いて……俺は驚いた。  やっぱりみゆにだけは反応したのだ。  あの場でみゆを押し倒さなかったことだけは、今でも自分をほめてやりたいと思っている。
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