17章:注がれる愛が重すぎる

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 自分の決意に後悔し始めそうな私に、 「とりあえず今日早急に婚姻届けを出そう」 と先輩は言う。 「……ええっと?」 「証人欄ももう記入してもらってるから」  ベッドサイドのチェストから取り出した婚姻届けには、もうちゃっかり先輩の名前だけでなく、先輩のお父さんと私のお父さんの名前まで証人欄に署名されていた。 「いつの間に……」 (これいつ用意してたの⁉) 焦る私に、 「ちょうどよかったねぇ。今から出しに行こう」 と先輩が笑う。 「え? 今日土曜だから役所って開いてないんじゃ」 「婚姻届けは出せるんだよ? 時間外窓口あるし」 「そ、そうなんですか……知りませんでした」  私が言うと、先輩はふふ、と笑って、私をテーブルまで運び、ペンを渡した。 「私の印鑑は」 「もう借りてきてる」 「……いつの間に」 「弁護士って言うのは、前もってちゃんと準備しておくものなんだよ。機会を逃さないように」  あんな告白をした手前、やっぱり無理です、とも言えず。  実際そんな空気には先輩がしてくれなくて、私は、ゆっくり婚姻届けに署名をした。 「うん、間違いないね。よし、今から出しに行こう」 「えーっと」 「はい、行くよ」  先輩の勢いに押されて役所に行くと、本当に「時間外受付窓口」というものがあって、そこにいた職員さんに本当に提出できた。その職員さんは私たちを見ると、おめでとうございます、と微笑んでくれて、私はその人の笑顔と言葉に、本当に結婚したのだと実感した。  そしてそのまま流れるように、また先輩の家に押し戻された。
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