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まだ明るくなる前の早朝、起きたら目の前に愛しい顔があった。
「……ん、先輩?」
寝ぼけて、呟くと、ふふ、と健人さんは嬉しそうに笑う。
「久しぶりに『先輩』って呼ばれたかも」
そう言って抱きしめられる。子どもができてから何度も訓練され、私は『先輩』を『健人さん』と名前で呼べるようになったのだ。呼び慣れてくると、次は先輩、とは呼ばなくなっていた。
そんなことを思って目線を落とすと、健人さんの裸の胸板が目の前に来て、やけに恥ずかしくなってしまい目線をそらした。
「みゆ? もしかしてまだ恥ずかしがってるの? 昨日の夜もさ何度も顔隠すし。それ見たらまた興奮しちゃったけど」
「わぁああああああ! もう、やめて! やめてぇ!」
泣きそうな私の頬にキスを落として、次は唇に軽く触れるだけのキスを繰り返す。
そしてまだ、ぎゅう、と抱きしめられた。
「……幸せだな」
健人さんが心の底からつぶやいたような言葉がやけに胸に染みた。
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