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そのまま私の髪をなで、健人さんは言う。
「あかり迎えにいったら、そのままみんなで水族館でも行こっか?」
「はい、いいですね」
「じゃ、お弁当作ろうかな」
「じゃあ、私おにぎり作ります」
「俺は卵焼きだね」
「そういえば健人さんの作る卵焼き、お父さんと同じ味です」
「柊家秘伝の作り方教わったから」
「秘伝……そういえばそんなことお父さんが言っていたような……」
私が何度言っても、父はちょっと甘い卵焼きを作っていた。
今は同じものを健人さんが作ってくれている。
「あれ、昔、みゆのお母さんが作ってくれてたみたいだよ。お父さん、そのレシピ見て作ってたんだって」
「え……」
秘伝ってそういうことか……。そんなの初めて聞いた。
「じゃあ、私に作り方教えてくださいよ! 私も作れるようになりたい!」
「だーめ」
健人さんはそう言うと続ける。「お父さんの代わりにみゆに愛情を注ぐの、俺の役割って決まってるから教えない」
そう言われて言葉に詰まる。
この人はいつだって、私に愛情を注いでくれる。重い重い愛情を……。
それを私はいつの間にか、重く感じなくなってた。
あかりの『普通』が変わってるって言ってたくせに、私の『普通』だって変わってきていたのかもしれない。
でもそれはそれでいい気がして、私は抱きしめてくれている健人さんの背中に腕を回した。
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