1章:最悪な再会とあの日の続き

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 電車を降りると、小さな飲料メーカーである私の会社まで歩いて5分。自社ビルは保有しておらず、生命保険会社が建てたビルの4階を間借りしている。そんなわけで生命保険会社の人が良くうちの会社にも勧誘にやってくるが、私はもともと必要性を感じていたので何個かそこで加入していて、保険会社の女性とも仲が良い。  そう、保険は大事だ。  母が亡くなった時も心の傷はなかなか癒えなかったが、お金があることで助かったことは多い。  そして、人生には、『まさか』が起こることも身をもって知っていた。  母のように突然亡くなってしまうこともあれば、突然、誰かを怪我させてしまうこともある。保険は必須。保険失くして、人生は成り立たない。  こんなにこんなことを強く思うのは、私が元は保険の外交員だから、ではない。  実は私は、高校時代に、とんでもない事件を起こしたことがあるからだ。  それを知っているものは、私と、あの男くらいだけど。  きっと一生、あのことは、私の中で重い足かせとなってまとわりつく。そのせいで、私はまともな恋愛ひとつできやしない。思い出すと、身体が、ブルリと震えた。
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