1章:最悪な再会とあの日の続き

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「鳳凰って、最大手じゃん! 給料も上がったりするのかな?」  成美は言う。すると笹井部長は、 「処遇については、本日より個々に鳳凰グループの人事部長と面談する。また、同時に依願退職も募るそうだ。吸収時の依願退職者の退職金は、既定の数倍を予定しているとのことだ」 と告げた。  それから部内は誰もが落ち着かなかった。  当たり前だ。依願退職を募ってて、面談ってことはクビになる可能性も高い。とくに私みたいな特に能力もない普通の平凡な社員は……。  私は悲壮な顔で成美を見た。 「成美、どうするの……?」 「まぁ、ホウオウに行けたら行けたで嬉しいけど、彼氏とも相談してみるよ」  あっけらかんと成美は笑う。「結婚も考えてたし、このタイミングでやめてもいいかなぁって。退職金多いみたいだし。どっちみち28で能力なしなんて、肩叩かれること必須でしょ」 「そんなぁ……!」  私は情けない声を上げて、床にずり落ちそうになった。  成美は大学から仲良くなったけど、就活も入社も、ずっと一緒だった。同期が辞めていった時も、成美は『私たちにはそんな根性ないよねー、平凡が一番!』と笑ってた。  なのにいつの間にか、成美は成美で自分の人生の方向を模索していたのだ。  それには、成美が長年付き合っている彼氏の存在も大きいかもしれない。成美は平凡に彼氏を作って平凡に結婚する、と豪語していた通り、結婚を約束した彼氏と、もう5年目のお付き合いをしている。  それを成美は『平凡』と言ったけど、私にとっては彼氏を作って、結婚まで意識するなんて絶対真似できないし、それって全然平凡ではないことなんだけど……。  だって恋愛なんて私には一生無理だ。私は恋愛不適合者。恋愛したら犯罪者になりかねない。きっと、恋愛してはいけない星のもとに生まれている。
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