1章:最悪な再会とあの日の続き

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 だからこそ、この会社が大事だった。平凡に、普通に、平和に、いつもどおりの毎日を過ごさせてくれるこの会社が……。  私はくるりと笹井部長を振り返ると、 「部長は……部長はどうされるおつもりなんですか」 と聞く。  笹井部長は、私が入社した時からの上司だ。御年58歳。優しく、怒らず、誰にでも笑顔で接してくれて、『仏の笹井部長』とまで言われている上司。  私はもちろんそんな部長を尊敬しているし、信頼している。笹井部長がいたからこそ、こんな私でも、ここで平和に、平凡にやってこれたようなものだった。  しかし、部長は目をそらし歯切れ悪そうな声で、 「えっと……僕はほら、そもそも定年間近だったしね」 「まさか残らないんですか……?」 「まだ決めたわけじゃないから」  それは早期退職、もしくは他に行くかもしれない、という意味の言葉に聞こえた。  部長も、成美も、そして、会社までも全部変わる……。  私はその日、どうしていいかわからず、ただ茫然としていた。
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