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たまごの中から
「今日の玉子は美味しくないわ。この前の玉子はどうしたの?」
「あれは実は特別な玉子でして。」
ジェロームから美味しい玉子の店が森にあると聞いて、お嬢様は自分で買いに行くと言ってきかなかった。
「案内しなさい。」
「わかりました。」
そういって出かけたのだったが、森の中で気が付くと一人になっていた。森の中をジェロームの名前を呼びながら歩いといると、たまご屋が目の前に現れた。
「ああ、こんなところにあるのね。全く、ずいぶん歩かされたわ。あとからジェロームに文句言わなきゃ。」
そういいながらドアを開けると、カゴに山盛りになった卵が目に入った。一目見て美味しい玉子に違いないってわかった。
「この卵、全部ちょうだい。お代はこれでいいわよね。」
金貨を2.3枚置いて、さっさと卵をもって出ようとするとドアが開かない。
「おやおや、全部は買えないんですよ。それにお代はこれじゃダメです。」
「何言ってるの、それじゃ足りないっていうのね。なんて欲張りなんでしょう。」
「お金じゃあダメなんですよ。そう聞いてませんかね。」
「知らないわそんなこと。お金を払ったんだから私のものよ。」
「お嬢さん、悪いがアンタに卵は売れないね。どうしてもっていうなら、アンタの髪の毛をよこしたら1つくらいはやるよ。どうだい?」
「髪の毛ですって?」
「そう、バッサリとね。耳の下あたりで切らせてもらおうか。それくらいしか、アンタのもってるものでうちの玉子はやれないね。」
お嬢様の髪はきれいな流れるような金色で、それはそれはお日様のような美しさで、自慢の髪だった。
「ばかばかしい。なんで髪の毛を切らなきゃいけないのよっっ。」
「そうかい、それじゃあ仕方ないね。」
小人はにやりと笑ってお嬢様に向かって金貨を投げつけると、あっという間に周りが真っ白の壁に囲まれてしまった。
「ちょ、ここから出しなさいよっっ。」
「うちのたまごを金で買おうとするからさ。しばらく、そこに入ってな。」
そういって小人はお嬢様を卵に閉じ込めてしまいました。
「全く、お金を出せばなんでも買えると思ったら大間違いだよ。ま、お前さんを助けに来るようなもの好きはいないだろう。そこにずっといるといい。」
「そ、そんなことはないわっ。お前なんかお父様が懲らしめに来るわよ。早く私を出さないと、ひどい目に合うからねっっ。」
「やれやれ、ひどい目にあうのはどちらかな。だいたいお前の父親がここまで探しに来るかねぇ。」
にやにや笑ってお嬢様の入った卵をかごの中の玉子の上に乗せてしまった。
そこにマリーがやってきて、お嬢様を返してほしいと頼みに来ました。
森の中でお嬢様とはぐれてしまったジェロームさんがお屋敷に戻ってきて、みんなに森の中のたまご屋に行ってほしいと頼んだのだけど、誰も行こうとしなかった。ただ一人、マリーを除いては。
「おばあちゃんのために卵を買いに行ったから私、行ってみます。」
「よしなよ、ほっとけばいいんだよ。」
皆に止められたのだけど、マリーはおばあちゃんがお嬢様は本当は優しい子なんだよって聞いていたので、何とかしたいと思ったのです。ジェロームさんと一緒に森の中に入ったのだけど、気が付けば一人で森の中を歩いていて、たまご屋の前に来ていたのでした。
小人は籠の中のたまごを指さして
「あの娘は、卵に閉じ込めてある。1つ選んで当たったら返してやる。ただし外れても、そのポケットにあるものは私のものだよ。」
「わかった。ポケットの中にあるものでいいのね?」
「ああ、お金はいらない。お前は大事なものをポケットに入れているんだろう。それと交換だ。」
マリーのポケットの中には、大事なものが入ってました。それを小人に渡すと籠の中のたまごを1つ選びました。
「これをください。」
「それでいいんだね。今なら別のにしてもいいんだよ。」
「あの、ここで割ってもいいですか?」
「あ?ここで・・・。いいだろう。」
マリーは迷いなく卵をこつんと籠ののっている台に打ち付けると、なかからコロンとお嬢様が転がりだしてきた。
「ちぇ、お前さんの勝ちだ。もうちょっとこのお嬢さんには反省してほしかったんだけどね。」
「お嬢様、お屋敷に帰りましょう。」
そういってマリーはお嬢様の手を引いてお屋敷に戻っていきました。
そのあともマリーはお屋敷で働いていますが、お嬢様はすっかり優しくなって二人っきりの時は「マリー」と呼んでくれるようになって妹のようにかわいがってくれるようになりました。
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