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ブランクーシュ家
「いいこと?私がいう事は絶対なのよ。私が白いと言えば白いの。口答えは許さないことよ。」
「はい、お嬢様。」
「よろしい、下がりなさい。」
「はい、お嬢様。」
ブランクーシュ家の一人娘、シルヴィ。
新しい小間使いが入ると必ずニッコリ笑いながらキッパリという。
手にはナイフを持っていたり鞭を持っていたり。
時には長い棒をくるくる回していたり。
たいていの小間使いはひゅんひゅんなる鞭の音を聴くだけで震え上がる。気の小さいものは、その日のうちに逃げてしまうこともあるくらいだ。
「お嬢様、そういうものを部屋で振り回すのはおやめください。」
唯一、そんな口が利けるのは乳母のナニィ。
「あら、ごめんなさい。」
そういいながらも鞭は手放さない。
「どうしてそんなものを振り回すようになっておしまいになったんでしょうねぇ。お小さいころはお花つみの好きな、おやさしいお嬢様でしたのに。」
そういいながらエプロンで顔を覆って泣くマネをして見せるが、お嬢様も慣れっこになっていて知らんふり。
「うっさいわねぇ。ナニィ、用がないなら出て行ってくれない?」
「まああ、『うっさい』だなんて、いつそんな言葉を・・・。」
「うっさいくらい言うわよ。」
「反抗期、そうなんですね。お嬢様もとうとう。」
まだ涙ぐむナニィにイライラするシルヴィお嬢様。
「用がないなら下がって頂戴。」
くるっと窓のほうを向いてしまう。そこへ朝ご飯の用意が整いましたという声がドアの向こうからして、パンやベーコンなどをワゴンに乗せて運んできた。
「今朝は小さなオムレツとフライドエッグ、ゆで卵をご用意しました。」
「ふん、まあいいわ。」
そういって執事のジェロームが椅子を引いたところに優雅に座る。
「デザートは季節の果物とチーズでございます。」
「チーズは何?」
「ブリ―のいいのが入りましたので、そちらをお出しする予定でございます。」
「この前のブルーチーズはやめて頂戴。」
「承知いたしました。」
次から次へと平らげていくお嬢様。
「うん、今日の卵はいいわね。」
「はい、特別なニワトリの卵と聞いております。」
「ふーん、特別なニワトリねぇ。まあいいわ、この卵は気に入った。」
「ありがとうございます、そのように伝えます。」
執事のジェロームはいつも堅苦しく決まりきった受け答えをするので、お嬢様のお気に入りだ。決して逆らうようなことは言わないし、口答えもしない。
ナニィはため息をつきながらお嬢様の部屋を出る。
「お母さまがいないからって甘やかしすぎたのかねぇ。」
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