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粘着テープをもって車からでる。外から目張りするためだ。後部座席両側と助手席側の窓とドア廻りを念入りに目張りした。
運転席側は入ってからだから内側から貼るしかない。
トランクから買い込んだ練炭と七輪と取り出して運び入れないと。
とりあえず七輪から、かな。後部座席下に並べようか、…それしかないな。
運転席越しに七輪を並べてる時だった。
窓をごんごん、と叩かれた。
「ここ駐停車禁止なんで。」
指差してる男が立ってた。
…確かにその男の指の先に駐停車禁止の標識があった。
死にたい男は凍りついていた。が、指差してる男の方は全く無頓着に、
「ここら田舎の山道なんで暗くって。ここに停まってるとうっかりぶつかる車居るんですよ。何もないと思い込んで飛ばしてくるから。」
そして道なりに指を置いて
「この先に道の駅あるんです。この時間だから営業はしてないんですけど、駐車場はオープンなんで。仮眠とかそっちで停めてして貰えます?も、走ったら5分もないとこですから。」。
すみません、すみません。
死にたい男は、そうもごもご言うしかない。
移動しようと素直に思う。
すると指差す男がこう言った。
「あなた、死ねないですよ。」
死にたい男は再び凍る。
やっぱりバレてるか…。
しかし次の言葉に驚愕する。
「発火剤も炭団も無しで、しかもそんなびちょびちょの練炭、まず燃えないっすよ。」
えええっ!!
確かに練炭が袋ごと激しく濡れてる。
まるで水の中から引き上げたばかりのように。
なぜ…?
なぜ車のトランクで濡れるんだ?
けれど、…濡れてる。
「な、なんで?なんで濡れてる?それに発火剤も買ったのに…、なんで無いんだ。」
知らず声に出てた。
すると奇妙な男は事も無げに言うんだ。
「そりゃ死ぬ日じゃないからっすよ。死ぬ日てのがだいたい決まってるんす。ざっくりですけどね。」
え…。
なんの話をしてるの…。
死にたい男は奇妙な男をただただ見つめた。
「ひとつが出てひとつが入る。ひとりが帰るからひとりが来る。ひとつ空くからひとつ座れる。
そんなかんじ。ざっくり、でね。」
死にたい男が口を開いた。
「俺の死ぬ日はいつですか…。」
奇妙な男がタブレットのようなものを出した。
ちょちょっとつついて、聞いてきた。
「あなた、お名前は?」
名前を告げられてこう言う。
「そのお名前で今生きてる人、ざっくり80000000人。」
死にたい男は泣きそうだった。
「ちょっと待ってね、手っ取り早く特定しますから。GPS、位置情報を入力、と。」
「…いつですか、」
声が掠れて出てこない。
「おいくつでしたっけ?」
「…35です。」
ああ、消えてしまいたい。
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