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「じゃあ58年後ですねー。予定日は93才なんで。まあまあありますね。」
奇妙な男はスゴく明るい。
死にたい男は崩れ落ちてた。
「…あんた、死神なの?」
すると奇妙な方は少し憤慨したようだった。
「まさか。そんなカッコ悪い神なもんか。そっちこそなんで死にたがってるんです?」
なんで…って?なんでっ…て?
…なんでだったっけっか。
もういやなんだ…。
奇妙な方がぺらぺらと喋る。
「そもそも死んだら逃げれるとか楽になれるとか、そこまるっぽ信じ込める、が信じれないっすね。誰も死んだことないのに。」
え、…。
そこから違うの…?
「そういうんじゃなくって、ほら!転生したらどうのこうの、てあるっしょ?その理屈と原理なら、死んでみたら死ぬ前と全くおんなじだった、もあり得るんすよ。…いっぺんラノベも読んどいたらいいんじゃないすか。」
…ねぇ、自殺したら地獄なの…?
「あー、オレ宗教はよくわかんないっす。あと、死んでからの行き先てのは、全く知らないす。ま、死んだときにでも、ご自分で確かめてみて下さい。」
うん、そうする。
自分で確かめる。
でも…58年もあるのか…。
死にたい男は泣き出してた。でも自分では気が付いてなかった。感情が沸き起こった覚えもなかった。
ただひたすらに涙を溢していたらしい。
奇妙な方はなんだかバツが悪そうだ。言い過ぎたかな、と思ったのかもしれない。
「…あのう、日付変えるくらいなら出来ますよ?」
えっ?
黙ってのシーってポーズで、囁いてきた。
「…同名で年齢の近いかたのなら予定日入れ替えられます。」
やります…?
奇妙な男が目だけで聞く。
死にたい男は頷いていた。
全力で頷いていた。
それじゃあ、あ、とタブレットをいじって、
「近いのがいいんですかね、そうですよね、…えっと最最に近い、でほぼ七夕の頃ですね。」
七夕…あと二ヶ月と少し?
「これがいちばん早いです。」
奇妙な男がきりっとした眼で通告する。
「あなたと入れ替わるのは40才の方。北海道に住んでます。」
どうする?とまた眼だけで聞く。
七夕なんですね…?
「正確にいったら、七夕ではないです。7月6日の23時23分。お風呂上がりに脳溢血、です。」
あ…。
「わかりました。それでお願いします。」
「…ちなみに、当日お風呂やめても脳溢血は起こりますよ。予定のメインはそこなんで。」
「了解です…。」
「あと、いっぺん交換してしまうと戻せません。やっぱやーめたっ、はできないです。」
いいかな?とまた眼だけ。
死にたい男は頷いた。
「はい。完了です。」
あっけない。見えるものは何も変わらない。
「じゃオレもういきますね。」
7月6日までお元気で、
そういってどこかへいってしまった。
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