うそつき村の悪霊(おとな)

4/6
前へ
/6ページ
次へ
死にたい男は結局帰ってきた。 後ろ目張りしたまんまの車で、自分が借りてるアパートの部屋まで帰ってきた。 部屋に転がり込んだら寝てしまった。 明るくなって眼があいた。 不思議な気分だった。 そうだ、カレンダー。 そう思って思い出した。携帯は電池切れしたままだった。 電話が鳴るのも疎ましかったんだ。なぜだかはわからない。 充電器を差し込んだ。途端メール音やらお知らせやら。ガン無視でカレンダーを開く。 7月6日までほぼ二ヶ月。 すごく不思議な気分だった。 あと二ヶ月何する、が涌いてきたのだ。 何しようかなんて感覚、何ヵ月ぶりだろう。 掃除しよう。 そう思った。そしてさらに不思議なことに、体がすぐ動いた。 綺麗な部屋にしておこう。 せっせと片付け、あちらこちらも磨いた。 掃除ひととおりで、少し疲れる。座って放置してた携帯の連絡をみる。 最後の着信記録が最終のバイト先。二週間前の日付。 時刻を確かめる。まだ営業時間だ。 折り返し発信してしまった。 電話はすぐ繋がった。バイト先の社員の主任だった。 おー、連絡取れた。そう言う声が喜んでるようにも聴こえる。 給料が残ってるんです。振り込んでもいいんですけどね、正直うち今、人手欲しいんですよ。話がてら取りに来られませんか? 主任はそう言った。 数日後前のバイト先にまた雇われた。 配送屋の荷物の仕訳。単純な力業だ。けど同僚たちていうのは、概ねが残ってた。 おー、久しぶり、どうしてた? やっぱり聞かれた。 …ちょっと体壊して。 ついうそをついた。言い逃れなんだ。 そっか、それは大変だったな。そうだB班にしてもらえよ、あそこしばらく荷が軽いのが入るから。いきなり無理はよくないからな。 楽な方に回してくれた。 奇妙な気分だった。 日々はゆっくり過ぎてくように思えた。 あと何しようか。 そうだ、見たかった映画があった。 あれもこれも。見れた。 劇場で。ネットで。 あと何しようか。 親に会いにいった。 家を出てから15年くらい経ってた。 ただいまも言わないで家に入ったら、母親が居た。 母親は驚きも泣きもしないで、黙ってコンロの前にいって、焼き飯を作り出した。 それで、今午前の11時25分だって気が付いた。 食卓の椅子に座ったら焼き飯がとん、と俺の前にソースと一緒に置かれた。 母親が目の前に座って先に自分の焼き飯を喰いだしてた。彼女はソースはかけない。 俺はソースをかける。 ソースをかけて喰ったら、とてもよく知ってる味がした。 食べて留めて。 「ただいま。」 そしてまた喰った。あとはひたすら喰った。 「おかえり。」 母親がそう答えた。 父親も帰ってくるから晩御飯も食べていけ。 母親がそう言ったけど、 「また、近いうちに来るよ。」 俺はそういって出た。 うそついた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加