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死にたい男は結局帰ってきた。
後ろ目張りしたまんまの車で、自分が借りてるアパートの部屋まで帰ってきた。
部屋に転がり込んだら寝てしまった。
明るくなって眼があいた。
不思議な気分だった。
そうだ、カレンダー。
そう思って思い出した。携帯は電池切れしたままだった。
電話が鳴るのも疎ましかったんだ。なぜだかはわからない。
充電器を差し込んだ。途端メール音やらお知らせやら。ガン無視でカレンダーを開く。
7月6日までほぼ二ヶ月。
すごく不思議な気分だった。
あと二ヶ月何する、が涌いてきたのだ。
何しようかなんて感覚、何ヵ月ぶりだろう。
掃除しよう。
そう思った。そしてさらに不思議なことに、体がすぐ動いた。
綺麗な部屋にしておこう。
せっせと片付け、あちらこちらも磨いた。
掃除ひととおりで、少し疲れる。座って放置してた携帯の連絡をみる。
最後の着信記録が最終のバイト先。二週間前の日付。
時刻を確かめる。まだ営業時間だ。
折り返し発信してしまった。
電話はすぐ繋がった。バイト先の社員の主任だった。
おー、連絡取れた。そう言う声が喜んでるようにも聴こえる。
給料が残ってるんです。振り込んでもいいんですけどね、正直うち今、人手欲しいんですよ。話がてら取りに来られませんか?
主任はそう言った。
数日後前のバイト先にまた雇われた。
配送屋の荷物の仕訳。単純な力業だ。けど同僚たちていうのは、概ねが残ってた。
おー、久しぶり、どうしてた?
やっぱり聞かれた。
…ちょっと体壊して。
ついうそをついた。言い逃れなんだ。
そっか、それは大変だったな。そうだB班にしてもらえよ、あそこしばらく荷が軽いのが入るから。いきなり無理はよくないからな。
楽な方に回してくれた。
奇妙な気分だった。
日々はゆっくり過ぎてくように思えた。
あと何しようか。
そうだ、見たかった映画があった。
あれもこれも。見れた。
劇場で。ネットで。
あと何しようか。
親に会いにいった。
家を出てから15年くらい経ってた。
ただいまも言わないで家に入ったら、母親が居た。
母親は驚きも泣きもしないで、黙ってコンロの前にいって、焼き飯を作り出した。
それで、今午前の11時25分だって気が付いた。
食卓の椅子に座ったら焼き飯がとん、と俺の前にソースと一緒に置かれた。
母親が目の前に座って先に自分の焼き飯を喰いだしてた。彼女はソースはかけない。
俺はソースをかける。
ソースをかけて喰ったら、とてもよく知ってる味がした。
食べて留めて。
「ただいま。」
そしてまた喰った。あとはひたすら喰った。
「おかえり。」
母親がそう答えた。
父親も帰ってくるから晩御飯も食べていけ。
母親がそう言ったけど、
「また、近いうちに来るよ。」
俺はそういって出た。
うそついた。
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