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日々はゆっくり、さらに緩やかに過ぎていく。
手紙を書いてた。
七年ほど暮らして結局別れた彼女に手紙を書いてた。
電話かメールにしようとも思ったけど、着信拒否されてたら、とそれが怖かった。
謝ることが沢山在りすぎてたことに気がつけた。
ひとつひとつ、思い出して、ひとつひとつ、謝った。
住所を書いて郵便局まで持っていった。
別れてから2年ほど経つから、ここにはもういないかもしれない。
それが彼女が今幸せなんだよ、て証なのだとしたら、それでもいい。寧ろそれがいいんだろうとよく判る。
でもこの手紙は彼女の元に届いて欲しい、そう思った。
朝起きて、働きにいって、帰ってきて、ごはんを食べてお風呂に入って寝る。
それを繰り返す。
毎日繰り返す。
そうか。これがしあわせか。仕合わせ、だ。
穏やかだった。すごく穏やかだった。
死にたい、の不思議は、動けなくなることだ、とわかった。
なぜだろう?
文字通り、身動き取れなくなる。
あれはなぜなんだろな。
日々はゆっくり過ぎてく。
7月になった。
その日は仕事が終わって、明日が休みだったから、見たかったアニメの一挙見でもしようかな、と食材かって帰った。
先に風呂を済ませて、さ、見始めるか、のときチャイムが鳴った。
彼女だった。
うっかり反射でドアを開けてしまった。
青ざめた彼女がひっくり返りそうになってた。
手紙なんか寄越すから…っ。て、ちょっと怒ってた。
てっきり俺が首でも吊ってるかと思ったそうだ。
「…まだ、この部屋に居たんだね。」
彼女が穏やかに言った。
彼女もまたまだ前の部屋に居た。
会えて嬉しい。
俺が言った。うそかどうかはわからない。
うそだったかもしれない、
けど、言い続けてたら、うそはだんだんその風に思えてきて、やがてホンとになる。
そのこともわかってきた。
だからこうなりたい、と思ったら、そうだと言い続けたらいいんだろう。
ならば必ずそうなってゆくから。
「再会だね。」
彼女が笑った。
再会のお祝いをしよう。
俺が言った。
その場で彼女の好きなレストランを予約した。
7月7日の午後6時から。
彼女の瞳が輝いてた。
ごめん。
ほんとうにごめん。
俺、うそをつく。
ごめんね。ごめん、ごめんよ。
そして7月6日になった。
俺の最後の日。
仕事普通にあったので、普通に行って荷物を運んだ。
今日はトラブルもなくて、上の人も、同僚たちも上機嫌だった。
なにも言わないでにこやかに帰った。
「じゃまた、明日っ」てうそついて。
みんなもにこやかに手を振ってくれた。
最後のメシは何にしよう。
不思議に腹一杯な気分だった。胸一杯が正しいのかもしれない。
風呂を済ませて部屋を掃除した。
それから買った指環をよく見える場所に置いた。
俺が死んだあと誰かがこれに気がついて、箱を開けてくれたら指環で、裏に名前を掘ってもらったから、きっと彼女に渡して貰える。そう思って、そう願った。
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